神楽 謡(うたい)
一 天狗
二 天鈿女命
三 三宝荒神
四 榊 葉
五 春日社人
六 お 多
七 保食神
八 田うない
九 種子蒔
十 八幡大武神
十一 恵比寿
十二 七五三切
【以後の頁 謡(うたい)を記録する】
令和二年四月 神楽復活後五十年を記念し保存版として
神楽保存会 会長 藤代孝一 記録 藤代正倫
天鈿女命
久方の天の八重雲排し分けて
駅路に鈴の音すなり
それ神楽は東西の兆
華燭の極 正直自然天神唯一の大道にして
その始め 岩戸の前に於いて巧みに俳優す
その音清かにして 国の内に充てり
真に斎の原水を汲んで 三強の一滴をなめず
天津神籬の尊き伝えをもって
斎場斎庭を設け
御神楽を奏し奉り
祈願感応成就たるべしと
謹み謹みて 怠ることなかれ
三宝荒神
我は是れ 天孫降臨の御時
天の八街に立ち塞がり
皇孫の命を迎え導き奉るが故に道祖神と申す
今伊勢 内宮 乾の隅
石段興玉の神なり
自らをこれまで称するものは何者ぞ
それ荒神といわば 猿田彦の別名たり
道の道たることを教え諭しては
塩土 天地 万物の瑞気を保っては 外宮豊受の大神
衣食を掌どっては 稲荷同体 夫婦縁介を守る
荒神また曰く
道祖神 船玉の神 毬の神 あるいは剣術軍の神
壱岐の神 大田の神
士農工商 各々信ずる所に応えて 万事全く守護す
また曰く 庚申の神 青人草 庚申の日 申の刻より寅の刻まで
内外の清浄 謹み謹んで我が神力を仰ぐ輩に於いては
あるほどの依願 全く成就せしめん
汝も 今日 只今の御神楽 成就せしめんと思わば
円金の家を守り
あな天津神 国津神
八百萬の御神 神垂祈祷冥加 益々と念じ給わば 湯津磐邑の如く
その願 よくよく成就たるべしと
謹み謹みて 怠ることなかれ
榊 葉
その日 御神楽の音高く
拍子も清やけき 伊勢の神風
御姿まさに 顕れたり
実に 実に 神明往古の象し
今こそ実に姿を現じ 青人草に見えんと
外宮の男神ら 陽の鼓を打ち給えば
内宮の女神ら 陰の扇を開き給えば
日月光を同じうして 舞を奏でるそのありさまは
真に心感 肝に銘ず
空虚ごととは これあらん
折から その月の 中の五日の 東雲ちかく
有明月は西に残れり
朝日はほのかに東に出で
日神月神 光を合せ
花になれたる胡蝶のごとく
武略の秘極を奏し給えば
天下安穏 国土豊かに 天照大神の 御陰の光ぞ久しけり
春日の社人
いつを いつをと松風の
声もろともに分け入らんと
我らに力は春日の明神
先立つごのうとなり給えば
剣を並べて切ってかかれば
やあやあ何者なれば我が住む山の庵前に来りて 狼藉をなすやらん
素より 鬼神に 偽りは無きものを
何と言えども余すまじ
大鬼神 鬼神 岩屋を出ずるよそおい
大地も動き 草木もなびき 空吹く風も生臭く
面を向こうべき様ぞなき
「出で出でさらば 汝らに 強の在所をひらいてみせん」
と大黒金の四本を振り上げて 横縦前後を払って廻れば
流石大器量の大社人も ほっちらされて元の所に 逃げにけり
今は剣もかのうまじ いざ神力を頼まんと
天狗笏をふり上げて 一心不乱に鎮悪心の祓いを修むれば
流石 大通力の大鬼神も 綸子に立ちたる車の如く
ぐ〜るぐると 巡りも敢えず よろうて立ちたる所にどっと伏す
「なぜさらば天下を悩まし人をとり 悪事盗人をなすならん
「それに懲りよ これに懲りよ」
「許し給えや 春日の明神」
許させ給えや 春日の社人 今より後は業もやむべしと
守護となりては 春日の末社にさんと
春日の祝え給えと 元の所に入りにけり
保食神
「それ我が国に五穀の生成止まざるは」
保食神の功しなり
さりと言えども 天津罪 地津罪を動かす時んば
いかんぞ成就すべけんや
元より
純一無蔵の水土に生ずるものなれば
年月日時を違えずして
田なつものは 田に植え
畑なつものは 畑に植え
左のものは 右に移さず
右のものは 左に移さず
天 地 のうちに満ちたる草木まで
神の姿と御稜威 畏れみ
天を尊び 地を敬い
太平無為の華をなす時んば
秋の垂れ穂の八握にしないて
国民豊かに 五穀成就ぞめでたけれ
八幡大武神
御殿しきりに鳴動し 和合同塵自から
その神徳も新たなる 御姿まさに顕われたり
「その神津代の始めより」
その秋津洲に国を占め
陰陽干満 龍雷の軍配
八陣の備え 八つの幡を立てなびかし
八百萬代の末までも 西海四海に誓いを現し
益々弓矢の武徳を添え 悪魔を鎮め 国土を治め
護る處にある時 夷国の凶賊ども
我が日ノ本を窺がわんと
襲い来たるを忽ち神風吹き起こし
波濤しきりに翻えり 賊船残らず海の藻屑となりにけり
「尚々 夷敵の恐れをなし」
尚々 夷敵も恐れをなし
再びそむくこともなく
民安全に豊かに住める
これ神徳の故なりと
御殿さして 入りにけり
七五三切
「我は是 天照大神の弟神」
素戔嗚尊なり
和合にもれては出雲の神 昔来にけり神有月の
天地ぐれを動かして 東西南北 神集まり
音楽聞こえて鋭気を薫じ 千早振れども 舞の袖
簸の川上のその古の教えを顕わす
祭り事 実に天雲の稲田姫 翡翠のかんざし印子の爪櫛
さすなり さすなり 袂も照るや 簸の川上の向いの岸に立ち給う
尊は大蛇を従えんと 十握の強剣 右手に抜き持ち
瞋れる大蛇の酔い伏したるを
斬り放ち 斬り放ち ずたずたに成せば
其の尾が切れて叢雲立つ
剣の刃少し 折れければ それを怪しみ御覧ずるに
その尾の中に 一つの剣あり
それは叢雲 是れは十握
いずれも良剣神剣なれば
永き世までの宝となすこと
是れ皆尊の功勲なり